俺たち株の初心者 証券口座の開設について 株に全財産ブチ込んでみた話

株に全財産ブチ込んでみた話 株というゲームで大金を稼ぐ

序章 敗者復活のゲーム

時は遡ること約10年前……。
リーマンショックで世界が金融危機に揺れに揺れていた頃の話です。

当時の私は『貧しいフリーター』

不安定な世界で私は就職もできず、
朝は銭湯の掃除、昼はスイミングコーチ、夜はコンビニと
複数のアルバイトを掛け持ちして生活しておりました。

みなさん『お金』は好きですか?
わたしは大キライです。

私の両親は毎日毎日・・・お金のことでケンカばかりしていました。

でも・・いくらケンカをしたってお金は増えません。

お金は寂しいのが嫌いなので、
いっぱい仲間がいるところにしか集まらないのです。

お金はキライ!だけどお金が無ければ生活できません。

通帳にはわたしの全財産が眠っているものの、
手持ちのお金は常に『小銭だけ』でした。

「ゲームのお金を増やすのは得意なのになぁ?」

頭の中で誰かがそう言った気がしました。

敵を倒して、宝箱を探し、ボスと闘い……。
ゲームなら……ゲームの中なら!!
私でもお金を増やすことができました。

ドラクエの中なら、私は億万長者なのです。

(お金をゲームみたいに増やすことはできないかぁ?)

そんな妄想をしながらネットサーフィンをしていると・・
私の背中に『電流』が走りました。

私は偶然見つけてしまったのです。


株で何億も稼いでいるという人のブログを・・・・・

株・FX・先物取引これぜーーんぶ

『マネーゲーム』

そう『ゲーム』なんじゃないのか……?

バカなわたしでも『株式市場』に、
お金が群れをなしていることぐらいは知っていました。

『いっぱいお金の仲間がいるところ』にいけば、
私の所にもお金が来てくれるかもしれません。

株もゲームを攻略するようにやっていけば
なんだか勝機があるような気がします……。

で億万長者になれたら・・
もうお金で悩まなくて良いんだ!」

わたしは真夜中だというのに、
目をギラギラさせながらパソコンに見入っていました。

えへ・・・・えへへへ・・・・えへっへへへっへ・・・・

第1章 とことん前向きのバカ

私は『株』のことが全くわかりませんでした!
なのでまず情報収集することにしました。

詳しい人に話を聞き、
書物を読んで攻略するのがゲーム攻略の基本です。

それから数日間本を買い、
インターネット記事を読みあさり、
情報をせっせと集めましたが……

そもそも私はまともに勉強などした事が無い。

文章なんて見るのも嫌・・・・

致命的な欠陥です。


さらに掛け算にすら苦戦するレベルの私に数字の理解は出来ません。

(ダメだこれは・・・・)

自分の低能さに絶望した私は当時の知り合いで、
株と不動産売買をやっているタカムラさんという人に教えを請うことにしました。

タカムラさんはこう言います。

「リスクヘッジが大事だよ~”損きり”といってね、
損をしていてもそれ以上被害が広がらないようにするんだ」

損切り

思い通りに株価が動かず含み損(ふくみぞん)を抱えてしまった場合、それ以上損失が膨らむ前に決済し、損を確定させること。ロスカット、ストップロスともいいます。



リスクヘッジ……
横文字で言われると何だか凄い事が出来そうな気がします!!!

『損してもマイナスを大きくする前に切る=損きり』
忘れないようにメモを書きます。

「それとここが一番大事だよ。

株売買には信用取引という方法があるんだけど…これを初心者がしちゃダメ。

なぜかというとね、自分の持っているお金”以上”に取引をすることができるから。

つまり借金できるシステムなんだよ!」

信用取引

投資家が証券会社に現金や株を担保にしてお金や株を借り、借りた資金で株を買ったり、借りた株を空売り(からうり)して利益を出す取引方法のこと。実際には預けた担保の約3倍までの取引が可能です。

借金!?


悪寒のするネガティブワードを聞いてスーッと血の気がひきます。

「えぇ……そんなことしませんよ、怖いですし」
そう答えても、タカムラさんはハハハッと笑いながらこう続けます。

「最初みんなそう言うんだよ。でも、グイグイ急上昇している銘柄株を数株買ったとする。

そのまま株価は上昇傾向…さらに利益も望めそうだ。それなら買い足したくなるだろう?

(た、たしかに……?)

でもその上がっている株なら、損しないからいいと思うんですが。

「みんながそれで得したら、株で失敗して自殺する人はいないだろ?

とにかく自分の身丈にあわない信用取引はしちゃダメってことだよ!」

ヘラヘラヘラヘラと笑いながら

軽々しく『自殺』などと言うタカムラさんに、

わたしは人間の闇を感じました。

(株とは一体なんなんだ・・・?)

まぁ話を聞いてみると確かに頑張れば、自分にも株取引はできるかもしれない・・・
でも、株に一歩足を突っ込んだら、暗い闇に引きずり込まれる……。
そんな気もしました。

「今ならまだ引き返せるよ!?」

もう一人のわたしが言います。


危険はある・・・しかし・・フリーターの私の生活は超不安定。
いつどうなるかもわかりません・・・

すでに私は危機的状況なのです!!!

そう・・これはもはや・・・
『賭博黙示録カイジ』の主人公カイジと変わらぬ状態。


私はカイジになる事にしました。

タカムラさんは話の最後にからかうように問いました。

「本当にやるの~?

自殺する事になるかもよぉ?」

株をやる!と言い出した途端、妙に不安を煽ってくるタカムラさん。

しかしわたしの心は決まっていました。

「明日、株を始める道具を買ってきます!」


私は宣言通りわずかな貯金を全て引き出して、
株で人生を賭けた勝負をする事に決めたのです!

第2章 変でいい!変じゃなきゃダメだ!

さて予備知識を手に入れた、わたしは必要な道具を揃えることにしました。
調べてみるとまず手持ちのPCでは、能力が不十分らしいので電気屋にいきます。

電気屋にずらっと並んだPC達は

「ぼくを買え!!」と主張しています。

「かっ・・株の取引に使える1番良いモノをください!」

わたしは出来る限りの笑顔と大きな声で、店員さんに話しかけました。

すると、店員さんはちょっと困ったような顔で、わたしの全身を見つめ……
(このときのぼくはTシャツにひざが破れたジーンズ姿でした)

「モニター3つは欲しいですね……」

と言いました……。

(モニターとは何だ?)

困惑する私に店員さんがTVを指差しながら怪訝な表情で言います。

「モニターというのはこの画面のことです」
(TV・・を3っ?!)

もうわけがわかりません。
泡をブクブク吹き出して卒倒したくなりました。

しかし、ここで諦めるわけにはいきません。

カイジは逆境の中でこそ、真価を発揮するのです。

「家に1台あるので、2台ください!」

(あ、この人買う気だな……)と店員さんはわたしの本気の熱を感じ取ったのか?
急にやる気スイッチが入り、すごい勢いでCPUの説明を始めました。

「お客様がおっしゃっている株の取り引きというのは、スピードが命なんです。

もし取引の最中にPCが固まってしまったり、シャットダウンしてしまうと取り返しのつかないことになります。そのため、OSは最新式。CPUは最速のものを選ぶべきです」

うん!わからん!

この『CPU大事!早いものを買え!』という説明以外はサッパリわかりませんでした。

株に詳しい店員さんの話すその言葉は、まるで南国のカナリヤが歌っているかのようでした。

全くわからん・・・・・

しかし、ここは人生を賭けた勝負の時。

そうだ・・・考えてみればゲームの世界では、
主人公が行き詰まると、必ず手助けしてくれる人が現れるもの・・・・

この店員さんはきっと主人公である私を助けるために
神様が用意したキャラクターなのだ。

彼の言うことをわたしは全面的に信じる事にしました。

「で、どれを買えばいいんですか?」

「あれです!」

(ぴかぴかのPCを示す店員さん)

ババーン!ピカーン!

店員さんを信じた結果。

わたしは指定されたモニターふたつとハード、
そして店員さんに言われた商品もろもろ・・・・・

31万円

という人生で最も大きな買い物をすることになりました。

ぐっ・・・・ぐぐぐぐ・・・・・・

しかし店を出ると、空はまぶしいほどの快晴。

気持ちの良い風が吹いていました。

(これからのわたしの明るい未来を祝福しているに違いない……)

わたしは両手に荷物を抱え、ニコニコしながら電気屋さんを後にしました。

さぁ!さぁさぁ!

お金を動かすために必要な道具はすべてそろいました。
あとは、株というゲームで大金を稼ぐ。

ただ、それだけでよいのです!

第3章 市場はクズの決心を待ってはくれない

家に帰り、机の上に設置したそのさまはまるで宇宙船のコクピットのようでした。

(かっちょいい・・・・・)

しかし、ここでわたしは大事なことを思い出しました。
わたしが読み漁った株の本には
「株取引をはじめるには、まず20万円は用意しなければならない」と書いてあったのです。

パソコンを買うのに31万円も使ってしまったから、のこり13万円しかない……。

アルバイトで必死に稼いだ

13万円。

大勝負をするにはちょっと心もとない額ではありましたが、
カイジの世界で考えると130万ペリカです。

カイジ基準で考えると、なんだか感覚がマヒしてくる。
勝負できるような気がしてきました。

よし、この130万ペリカ(13万円)でやってやる!

わたしは株への第一歩を歩み始めました。

ネット証券会社で口座を開設します。
しかし、意気揚々と13万円を預けた瞬間、不思議な感覚になりました。

お金なんだけど、お金じゃない気がする……。

たった今まで10枚もいたはずの福沢諭吉が、その瞬間、
ただの数字になった感じがしたのです。

ぐにゃ~ぐにゃぐにゃ~

そのときのわたしの気持ちをどう例えたらよいでしょうか。
何とも言えない気持ち悪い感覚。

目の前の数字が次の瞬間、0になってもおかしくない……。

もしそうなれば・・・私は

一瞬で全財産を失うことになるのです。

考えていると怖くなってきました。

やっぱりいきなり、

マネーゲームをするのは止そう。

まずはシミュレーター(バーチャルトレード)で肩ならしをしようじゃぁないか!

ネット口座を開設しただけでさっそくビビリはじめ小心者の私は・・
バーチャル株式投資ゲーム・バーチャルトレードを始めることにしました。

あの・・『ほら備えあればナンチャラ』って昔の偉い人も言ってたじゃないですか?
何せ全財産を賭けた勝負をするのですから・・・・慎重にならなくては・・

バーチャルトレードでは、まず仮想通貨が1000万円ほどわたされます。

結果は……6勝4敗、という感じ。
金額的にはトントンでした。
(おっ・・・これはいけるんじゃないか?)私はそう思いました。

その後、わたしは4日間みっちりバーチャルトレードを行いました。

集中してトレードを行っていたせいか、4日が経った頃には、
13万円が数字に変わったときの何とも言えないイヤな予感はだいぶ薄まっていました。

『大きく勝ってはいないけど、負けてもいない』ということは?

勝負になっているのではないか?

なんだ・・・いける・・・・いけるぞ・・・!!!!!

わたしの中で恐怖は希望に変わっていました。


負けなければ手持ちの13万円がなくなることはありません。
勝負し続けていれば、お金は増えるだけ……。
そして、4日間のバーチャルトレードで、私は以下の3つのことが大事だと気づきました。

  • その銘柄を選んだ明確な理由を持つ
  • なぜそのタイミングで売買したのかの理由を持つ
  • 買った銘柄の会社に関するニュースや新聞の情報にアンテナを張っておく

時は完全に満ちていました。
4日前のネット口座を開設したばかりのわたしがレベル1なら、

いまの私はレベル99です。

私は運命に導かれ株を始めた勇者だ・・・
どんな相手にも負ける気がしない!

あとはリアルな勝負をするだけ……。

わたしはその日の日経新聞、朝からやっているニュースを
取引開始の9時半までに頭に必死に叩き込みました。

うっ・・・うんいける!いけるぞ!
いける・・・・ハズだ!

今のわたしなら、今日の夜までに13万円を倍以上に増やすことができる!
(気がする)

――奇しくも、そのころ、

世間ではリーマンショックで市場が大荒れの状態。

リーマンショックとは

2008年にアメリカの経済危機が発端で起きた世界的金融恐慌のこと。
低所得者向けの住宅ローン(サブプライムローン)が返済不能となったことで、ローン引受の筆頭だったリーマン・ブラザーズが破綻し、それが引き金で世界中のマーケットが大混乱に陥りました。

第4章 未来は僕らの・・・

これは・・・・あきらかに・・・・

今株に手を出すのはヤバい。

株をまだ初めて間もないわたしでも、そのヤバい状況は火を見るよりも明らかでした。
世間は大荒れ、市場は混乱状態なのです。

わたしには心もとない知識と、全財産を投入して揃えた機器たちという防具しかありません。

「お前は100%成功しないタイプ・・!」

そんなカイジの名言が耳の奥で聞こえるようでした。

普通の株初心者の方なら「今の時期にやるのはよそう」とそう思ったはずです。

恐ろしい・・・・・しかし、私は立ち止まりませんでした。

脳の病気で死にかけて、18歳で警察官をクビになり、
この世の暗黒面を渡り歩いてきたこのわたしです。

今までのクソ人生を振り返ると、
このくらいの逆風は当然ような気にさえなっていました。

そう・・・状況が悪いのが当たり前。

わたしは目の輝きを取り戻していました。

目の前の世界が、荒れていれば荒れているほど、心の炎が音をあげて燃えあがる……。
だって幼い頃、わたしの憧れたヒーローたちは、みんなこんな状況で戦っていたのですからね……

えへ・・・・

えへへへ・・・・・

えへへへへ

えへへへへへへへへへ

えへへへ・・・・・

えへへへへ

株を買うときに大事なことのひとつは、
自分の知っているジャンルの会社を選ぶこと。

わたしの心は決まっていました。

わたしに幾度も夢と希望を与えてくれたドラクエを製作した、
(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスです。

世間の下落している株と同様、スクウェア・エニックスの株も低迷状態でした。

が!しかし!一番下がったタイミングを見計らって、
わたしはそこに全財産の13万円を全額投じました。

ドーン

時は20XX年8月27日。
人事を尽くして天命を待つ。
わたしの頭の中にはその言葉が鐘の音のように鳴り響いていました。

あがれ……!

あがれ……!!

あがる……!!

あがる……!!

そう、わたしの賭博黙示録はここから始まる!!

机に置いていた鏡には
真っ赤な鬼のような顔をした男がわたしをにらんでいました

うううっ・・・・ううう・・・・

第5章 勝たなきゃダメなんだ!

わたしはジッとPCにらみながら、株価の行く末を待っていました。

しかし……。

しかし……。

株価が全然動かないのです。

(????????)

一気に心拍数が上がり、
心臓がぎゅうっとねじられたような気持になりました。

まさか恐れていたPCの不具合だろうか!?

いや画面端の時計は正常に作動しています。
ストップ安がかかった?

ストップ安とは

株価が値幅制限の最下限まで値下がりすること。それぞれの銘柄には前日の終値を基準に決められた「値幅制限」があるため、株価が変動できる範囲に制限があります。

いえ、それもありえない取引き開始の9:00〜たった数秒でそれはありえないでしょう。

じゃあなぜ??

なぜ株価が動かないんだ?

焦りと心配で頭がおかしくなりそうです。

落ち着け……落ち着け、わたし……。

画面の隅からすみまで、ミスはないか確認していると、
わたしはとんでもないことに気付いたのです。

「あっ」

わたしはものすごいミス、というか勘違いに気付いたのです。

『年間チャート・・・』

わたしがずっと睨んでいた、株価のチャート表は

『年間の単位で見る表』だったのです……。

年単位で見れば株価が動いていないように見えるのは当たり前です。

儲けるためには、『分速・秒速の表』を
ジッと睨みつけて取引しなくてはならない株の世界。
モチロンわたしもそのつもりで買っていました。

・・急いで分速、秒速単位で見ると、
世間と同じく大暴落の途中でした。

お わ っ た。

私は静かに机を離れ・・
布団の中に潜り込み何かに対して土下座をはじめました
これこそまさに敗者に相応しい姿!

そして思い出しました……。

タカムラさんの不気味な笑顔を。

タカムラさんのあの言葉を。
「うへえへへ本当にやるのぉ?」
ジサツする事になるかもよぉ?」

ああっ・・・あああ・・・・・・・・・
自分の意識が遠のいていくのを感じました。

むく…むくむく…むくむくむく…

あああ・・・・あああああああああああ・・・・・ああああああああ

そう・・そうだ・・私にはまだゲームの世界がある!
株で負けたのは現実の世界の話なんだ・・・・

『気にする必要は無い!』
だって・・・・だって・・・

私はゲームの中では大金持ちなんだから・・

……こうやって私は辛い時に、『別の自分』を作り出して、自分の心を守ってきました。
そうするとツライ出来事の全て、まるで他人事のようにとらえることができたのです……。

もちろん、わたしが購入したスクウェア・エニックスの株は、
そのとき売りにだすこともできました。でも、わたしはそうしませんでした。

それをしたら……なんだか、わたしは本当になにもない人間になってしまうような気がしたから……。

で・・・・1年後、スクウェア・エニックスの株は一体、どうなったと思いますか?

それは・・・・う・・・

まぁ・・・ご覧のありさまですので・・・・
私が株について偉そうに話せる事は何もありません。

こうして笑いのネタに出来たことだけが唯一の救いです。

ただ・・私が言える負け惜しみは
「挑戦して失敗してよかった」という話です。

あのとき、タカムラさんの言葉におじけづいてやめていたら、
「コレをやったら億万長者になれるんじゃないか?!」
といつか株や株以外の何かでそう思い込んで

『破滅』していたと思います。

ん~まぁそう考えると~

いやぁ~も~ホントに株やっといて良かったな~!!!
あの失敗が無かったら今頃大変な事になってましたよ~

「えっ・・今の私ですか?」

年齢は30を過ぎて・・・無職で・・・・
貯金も十数万円しかありませんけど・・・・?

「それは破滅してるんじゃないか」って?

ハハハッ・・・・・・

もうやめましょうよ・・
そんな暗い話は・・・・

破滅END